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脳幹出血

冬に発症しやすい脳幹出血

脳幹出血とは

脳幹出血とは大脳と脊髄を繋ぐ脳幹は、伝わってきた情報を脳が処理し、それを運動機能に伝える橋渡しの働きをします。このように脳幹には、大切な神経が通っています。
脳出血は特に冬に発症しやすい病気です。寒い冬は、体を温めようと体温が上がりやすく、血圧も上がりやすくなります。脳幹出血が起きると、眼球運動障害や手足の麻痺、意識障害といった深刻な症状が現れ、重大な後遺症が残る可能性があります。発症してしまうと短時間で意識を失って倒れ、最悪の場合は数時間で亡くなってしまう方もいるくらい恐ろしい病気です。

前兆?このような症状はありませんか?

脳幹出血の症状は、時間が経つにつれ急に悪くなるのが特徴です。そのため、初期症状に気付き早期治療を行うことが大切です。
出血量によって現れる症状は下記のようなものがあります。

  • 吐き気・嘔吐
  • 頭痛
  • 顔面麻痺
  • 体の片側が麻痺する
  • 意識がもうろうとする
  • 上手く話すことができない
  • 突然息苦しくなった
  • めまい
  • 眼球運動障害(ものが二重に見える)

脳幹出血のような脳の疾患が疑われる場合、「ACT-FAST」の行動を取るべきと国際的にも認知されています。これは、Face(顔), Arm(腕), Speech(言葉)のどれかに障害が発生していたら、Time(時間を確認)して、ACT-FAST(すぐ救急車を呼んでください)という意味です。
また、日本脳卒中学会でも脳卒中に含まれるすべての病気が疑われる症状を、下記のように示しています。

  • 大声で叩いたり話しかけたりしても意識が戻らない
  • 嘔吐を繰り返している
  • ひどい頭痛を訴えていた

これらの症状が起きただけでは脳出血と確定はできませんが、脳出血が起きている可能性があるので、ただちに救急車を呼んで医師の診察を受けることが必要です。

脳幹出血の原因

脳幹に出血が起こる脳幹出血は、脳出血の一つに分類される病気です。脳出血の5~10%が脳幹出血の患者様で占めています。脳幹は後頭蓋窩と呼ばれる脳の部屋に小脳と一緒に入っています。小脳との関係性が深い脳幹は、上は大脳で下は手足まで神経が続いている脊髄と繋がっている器官です。要するに、脳幹は大事な神経が集まっている器官で、生きる上で欠かせない心臓のようなものです。脳を構成する一部である脳幹は、多くの役割を果たしているので、わずかな出血でさえ後に深刻な後遺症が残る可能性があります。脳幹は、「中脳」「橋」「延髄」から構成されており、出血が起こりやすいのは「橋」の部分です。原因の多くは高血圧であると言われ、他には血管奇形(海綿状血管腫など)によって起こる場合もあります。

脳幹出血の検査

脳幹出血は頭部CTで出血の有無を調べます。もし出血があれば、CT画像で脳幹内部に白く映るので、出血が起きていると判断できます。出血がわずかである場合、出血の範囲が広がっていないかを経過観察していくことが必要です。出血が止まったかを確認する方法は、数時間ほど時間をあけてからCT検査を行い、白い部分の広がりの有無を調べる、または検査した次の日以降に再び検査を行い、白い部分に変わりがないか調べると判明します。さらに、高血圧以外で出血したことが疑わしいケースだと、MRIやCTアンギオ検査(造影剤使用)、状況に応じて脳血管造影検査を受けて頂き、脳幹出血の原因となる海綿状血管腫といった異常の有無を調べていきます。

脳幹出血の後遺症の種類

脳幹出血でどのような後遺症が残るのかは、出血が起きた箇所・出血量で違ってきます。 次に代表的な脳幹出血の後遺症や脳幹出血のリハビリを詳しく解説していきます。

運動麻痺

手足を自分の意志通りに動かせなくなる状態を運動麻痺と言います。脳幹出血を発症して、手足を動かす神経がダメージを受けると、両手や両足に麻痺が残る可能性があります。ダメージを受けた脳の反対にある手足が上手く動かせなくなるケースが多く、出血量や出血した部位によって麻痺の程度に違いが現れます。

麻痺の状態による分類

完全麻痺:自分の身体を自分の意志で動かせなくなる状態
不全麻痺:完全に動かせない麻痺ではなく、少し動かせる状態
弛緩性麻痺:筋肉を伸び縮みさせる機能を失ったため、自分の意志で動かせなくなった状態
痙性麻痺:手足の筋肉が固くなり動かせない状態

感覚麻痺

感覚が分かりにくくなることを感覚麻痺と言います。脳幹出血を発症すると感覚が鈍る後遺症が残る場合もありますが、これは出血により感覚神経がダメージを負ったためです。感覚麻痺は身体の両側に起こることもありますが、多くは身体の片側に現れます。

感覚麻痺になると現れる主な症状

  • 肌に何か触れていても気付かない、または気付きにくい
  • 痛みに鈍くなる、または感じない
  • 温度が分からない、または分かりづらい
  • 動かしたことに気付かない、また気付きにくい
  • しびれがある
  • 小さな刺激でも痛い
  • 震えがある など

上記が脳幹出血の症状ですが、これらすべてが起こるわけではありません。人それぞれ症状の出方は違うので注意が必要です。

眼球運動障害

  • 滑車神経:目を内側下方に動かすための神経
  • 外転神経:目を外側に動かすための神経
  • 動眼神経:まぶたを上げる、眼球運動、水晶体や瞳孔の調節をするための神経

上記の3つの神経が眼球運動と関わっています。
脳幹出血が起きると、上記の3つの神経がダメージを受けて障害が発生することで、様々な症状を招きます。

眼球運動障害になると現れる主な症状

  • まぶたが下がったままになる
  • 物が二つに見える
  • 視界がぼやける
  • 視野が狭い
  • 物が見えづらい
  • めまい など

嚥下障害

嚥下とは、口に入れた食べ物を飲み込むことを指します。神経や筋肉を利用して嚥下が行われますが、脳幹出血を発症した方が嚥下をするときに障害が残る可能性があります。嚥下障害では、誤って気道に食べ物が入る、食べ物がなかなか飲み込めないといったことが起こり、次に紹介する症状が出てきます。

嚥下障害になると現れる主な症状

  • 食事を食べ終わるのが遅くなる
  • よだれを頻繁にたらす
  • 食事の量が少なくなる
  • 声枯れが頻繁に起こる
  • 咳込みが多くなる など

嚥下障害になると、通常の状態に比べ誤嚥性肺炎を引き起こす可能性が高いです。
嚥下機能を回復する訓練を受けたり、お口の中のケアをしっかり行ったりして、肺炎の発症リスクを下げることが大切です。

構音障害

構音障害とは、発音が上手くできなくて話の内容が伝わりにくくなる障害です。喋るときに必要な舌や唇、言葉をしっかり発音するための筋肉や神経がダメージを受け、上手く会話ができなくなるケースがあります。

構音障害になると現れる主な症状

  • 高い声を出しにくい
  • 言葉がなかなか出てこない
  • 声のかすれがある
  • 言葉の高低がない
  • 声量の調整ができない など

構音障害の方は、適切な発音の訓練やゆっくりした話し方にしてみると周囲の方とも会話しやすくなります。

脳幹出血の後遺症とリハビリ

脳幹出血の後遺症を克服するため、リハビリを通じて通常の生活に戻るための訓練をすることが大切です。脳幹出血を起こる以前の機能を取り戻すことがリハビリの目的ですが、無事だった筋力や身体の機能を維持し、向上を目指す目的もあります。
リハビリテーションは、下記のように時期別に3つの段階に分類されます。

急性期リハビリテーション(発症直後~数週間後)

脳幹出血が起きてすぐは、患者様の容体を安定させます。リハビリは、容体が落ち着いてから治療と一緒に行いますが、可能な限り早めにリハビリを開始した方が身体機能の回復は良いという報告があります。長期間ベッドの上で横になる状態が続くと、気分が落ち込みやすく、認知症やうつ病を発症するリスクが高まります。そうしたことを回避するため、発症直後からリハビリを開始していきます。急性期では、ベッドから起き上がることを目的とし、ベッドにいながらでもできるリハビリを行っていきます。

急性期に行うリハビリ

  • 関節がほぐれるように動かす
  • 上体を起こす
  • ストレッチをする
  • 寝返れるように練習する
  • 椅子に座った状態から立ち上がる など

回復期のリハビリテーション

回復期は歩く訓練を行います。
一般的に、回復期になるとリハビリテーション専門の施設に移るため、入院していた病院を退院します。脳幹出血の場合、発症後2ヶ月以内にリハビリテーション専門の施設に移ることが決められており、入院は150日以内、高次脳機能障害の場合は180日以内と期間が定められています。回復期のリハビリは、通常の生活が送れるようにすることを目標とし、身体の機能を回復させて生活する際に必要になる動作の訓練を行います。リハビリの効果を十分得るために、リハビリのプロである理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの支援が必要になります。

回復期に行うリハビリ

  • 生活に必要な基本の動作(立つ、座る、歩くなど)訓練
  • 生活に必要な動作(食事、着替え、トイレなど)訓練
  • 高次脳機能訓練
  • 麻痺の改善の訓練(促通訓練)
  • 筋力増強訓練
  • 関節可動域訓練
  • 嚥下や構音訓練 など

維持期リハビリテーション

一般的に維持期のリハビリは、在宅で生活しながら行って頂きます。急性期や回復期の訓練により取り戻した身体の機能を保ち、さらに拡大させながら社会との関りや自立した生活を目指します。実生活の中で脳幹出血前の暮らしを取り戻すため、維持期のリハビリテーションを継続して行い、諦めないことが大切です。

維持期に行うリハビリ

  • 物理療法(病院で行います)
  • 散歩
  • ラジオ体操
  • 生活に必要な動作の確認

脳幹出血の様々な後遺症の克服や病気を再び発症させないことが大切です。後遺症を克服するため、リハビリの専門家からのサポートを受けながら、少しずつ身体の機能を取り戻していきます。リハビリしても後遺症が残る場合もありますが、それを受け入れて今ある身体の機能を上手く使いながら日常生活を送る心構えが必要です。
再発しやすい脳幹出血は再び発症してしまうと、一回目に比べ症状が重くなることが多いです。つまり、身体の機能を取り戻しつつ、脳幹出血をまた発症させないようにすることが重要です。